小鳥のきりりB6 「タイミングのいいセリフ」

なんで神様はこんなにカラフルでユニークな生き物を作ったのだろうと鳥を見るたび思います。

きりちゃんの青い羽、黄色い羽毛にも、いろんな色が溶け込んでいて、それが光に当たると、また色が変化して見えたりして、本当にきれい。

よく「きれいねぇ」と話しかけていましたら、覚えました。

その覚えた「きれいねぇ」をきりちゃんはとても上手に使っていました。

うちに来てくださるお客様はほとんど女性。

お客様好きのきりりはすぐにぴゅーんと肩の上にとび乗って、タイミングよく

「こんにちは、きりちゃんです。キレイねー。」

女性陣、大喜び^^。

またある日のこと。

このころ私は手芸屋さんで働いていたのですが、パートだけれどやることは社員と一緒。

イベントの企画から、売れ筋を予想しての発注、見本を作ったり、新しい人を募集する時は面接もやったり。特にみんなでシフトを相談して決めるのは一苦労でした。

あー、今日は大変だったなぁと疲れて帰ってくると、きりりとこんな会話になりました。

「ただいまー、きりちゃん」

「キョウハ、タノシカッタ?」

「うーん・・・」

「ドーシタノ?」

「今日、〇〇さんがこんなこと言い出して・・・」

「ナンデカナァ」

「うん、どうも△△さんと折り合いが悪くて。」

「ナカクシヨウネ!」

「うん、そうだよね。でも、今日は疲れたわー。」

「ダイジョーブ?」

「うん」

「ヨシヨシ、イイコイイコねー」

そうして、私のほっぺたをくちばしで優しくカリカリしてくれたのでした。

最後のセリフは、大体意味がわかって使っているらしかったですが、それ以外は多分たまたま。

でも、何十個も覚えているフレーズの中の、よくぞこれをチョイスしたなぁと驚きでした。

時々、こんな風に会話が続くときがあり、もしかしたらわかってる?!、こっちが想像しているより賢いのかも・・と思うこともありました。

子供の頃から小鳥は何度も飼っていましたが、きりりとは一緒に過ごした時間が長くて密だったせいか、個体差なのか、他の子の時とは関係性が違いました。

小鳥というより、ワンコみたい。

こちらの気持ちにすっと寄り添ってくれる子でした。

いつも、私の気持ちが沈んでいる時は察知して、何度も「よしよし、いい子」と言いながら、ほっぺをカリカリしてくれました。


小鳥のきりりB5 「おしゃべり大好き!」☆

キリちゃんはに次々と言葉や歌を覚え始めました。

きりりがしゃべる言葉のバリエーションは3種類。

私が教えたり、きりりが勝手に覚えたセリフを、言葉を意味はわからずしゃべるケース。

どんな状況で使うかを把握して使うケース。

あと、知っている言葉や歌を自分で組み合わせたり、語尾を変化させたりしてアレンジするケースがありました。

とにかく、「聞く、話す」が大好きで、会話が始まると必ず参加したがりました。

目の前で人と話している時はもちろん、電話のときもすかさず飛んできて肩にのり、じっと受話器に集中。

そして、「はい、・・・・、はい、・・・・、はい、あ、わかりました。はい。じゃあね。」などと、まるで相手さんと私ときりり、3人で話しているかのように参加してきます。

小鳥だとは知らない人は、「誰かいるの?」「外国人?」などとびっくりしていました。

普段、ほとんど放し飼いだったのですが、お客様の中には、まれに鳥の苦手な人もいるので、食事や何かワークをするときには、カゴに入ってもらっていました。

でも、そんな時でもきりりは一緒におしゃべりがしたい。

はじめは、ピーピー鳴いてアピールするのですが、それでも出してもらえないとなると、餌の中から一番大粒のオーツ麦だけを選んで、外に撒き散らすという謎の抗議行動に出ました。

それも、ただ撒き散らすのではなく、そのオーツ麦はきれいな放射状の形にカゴの外に撒かれていて、まるで地上絵のようなのでした。

いったい何のメッセージだったんだろうって思います。

小鳥のきりりB4    「奇妙な鳴き声」☆

赤ちゃんインコはだんだん、自分でエサも食べられるようになりました。

羽も生え揃い、尾っぽも長くなってきたので、ケースから鳥カゴに移すと上手に止まり木に止まっています。

そんなある朝、きりちゃんがおかしな鳴き声を発しました。

いつもの高めの、ピュルルルとか、ピィとかいう声よりもっと低い声で、

「ギリチョン」「ギリチョン」

と繰り返しています。

あらぁ、変な声。どうしたんだろう?

そして、午後からは

「ギリチョン、ジューチュキ、ギリチョン、ジューチュキ」

と鳴くようになったのです。

「なんだろう、可愛くない鳴き声だなぁ」

でも、一所懸命聞いていると、

「あ! わかった! きりちゃん、だーいすき、って言ってるんやね!」

私が毎日言っている言葉を、きりちゃんは真似をし始めたのでした。

セキセイインコ、特に男の子はおしゃべり好きで言葉を覚える子が多いのです。

この奇妙なフレーズは、次の日には

「キリチョン、ジュワィスキ」となり、

また次の日には、はっきりわかる日本語で

「きりちゃん、だーいすき!」と言えるようになりました。


小鳥のきりりB3 「もうダメかも・・・」

この頃、私は隣町に習い事に行っていました。

小鳥には3時間ごとにご飯をあげていたので、行って帰ってくると間に合わない。

でも、ずっと続けて行っていたレッスンを休みたくなくて、教室の近くの友達に小鳥のご飯をお願いすると、快く引き受けてくれました。

小鳥の入ったケースとご飯セットを助手席に乗せ、できるだけ揺れないように慎重に運転し、うちから30分の友人宅を目指しました。

そして、後ろ髪を引かれながらも、友人に小鳥を預け、3時間ほどのレッスンを終了。

急いで引き取りに行きましたが、小鳥はとても元気な様子でホッとしました。

うちに戻ってからも、きりちゃんはいつもと変わらないようすで、遊んだりご飯を食べたり。

ところが、夜になって・・・

突然、きりりがピィ!と大きな声で鳴き、食べたご飯を吐き戻したのです。

そのあとも、何度も鳴きながら、口からご飯をまき散らし、ついにコロンと横に倒れてしまいました。

上に上がった片足が微かに震えています。

もう大きな声は出ず、私の方を見ながら、弱々しい声でピィィと鳴いています。

びっくりした私は、ペットショップに電話をしました。

今の状況と、外に連れ出したことを話すと、小鳥の先生は「あー、それはもう助からないと思いますよ。」と一言。

「何かできること、ないでしょうか?」

「無理ですね、死にますよ」

がっくりして、電話を切りました。

「きりちゃん、ごめん」

かわいそうで、かわいそうで、ケースのそばに座り、心の中で「お願い、助かって」と繰り返しました。

小鳥は倒れたまま、時々薄く目を開けては私の方を見ては、また目を閉じていました。

「ダメなのかな・・・」

ところが20分ほどすると、小鳥は何事もなかったように起き上がりました。そして、普通の声で「ピュルリ」と鳴きました。

「元気になったの!もう、大丈夫なの?!」

そのあとしばらくして、きりちゃんはまたご飯を食べ、いつものように眠りました。

ペットショップに電話をして、小鳥が回復したことを伝え、お騒がせしたことのお詫びをしたら、ほーっと力が抜けました。

あとで思うと、まだ赤ちゃんなのに車に揺られたり、普段は大人だけの静かなうちと違う、まだ小さな子供さんのいる賑やかなお家で過ごすのは、刺激が強すぎたのでしょう。

可哀想なことをしてしまいました。

でもそれ以降、きりちゃんは風邪一つひかず、元気に育ってくれました。

小鳥のきりりB2    「名前はきりり」

小鳥のいる生活が始まりました。

名前、何にしよう?

ふと、テーブルを見ると、その当時よく売っていた「きりり」というオレンジジュースのボトルがありました。

きりり。きりり。

なんか可愛くない?

よし、「きりり」に決定〜!

簡単に名前が決まってしまいました。

食卓テーブルの上の、窓に近い場所に小さな浅い藤の籠を置き、そこがきりりの居場所になりました。

夜は、細かく割いた新聞紙がたくさん入ったプラケースの中が寝床です。3月初め、夜はまだ冷えるので、ほんのり温かい熱帯魚の水槽の上にケースを置きました。

可愛くて、嬉しくて、最初の数日は夜中に何度も起きだして、ケースの中を覗き込みました。

できるだけ外に出かける用事も減らして、小鳥と過ごしました。

鳥が嫌いだったはずの夫も、そんなこと言ってたっけ?というような顔で、私以上にきりりを可愛がりました。

エサの粟玉をお湯で温めてあげるのも楽しみで、「僕がやるよ」「いや、私の方が温度とかわかっているし」「みーちゃん、昼間やってるんやから替わってよ!」と、スプーンの取り合いになりました。

子供がいない我が家で、小鳥はその小さな体に二人分の人間の愛情を一身に受けていたようです。

ペットショップの店長さんの心配をよそに、小鳥はすくすく育ってくれました。

「ほらね、私は子供の時から小鳥の雛を育ててたんだから、大丈夫なんだから」といい気になっていたところで、事件が起こりました。


小鳥のきりり Bの1 「我が家に小鳥がやってきた」

1994年か、5年の3月。

お誕生日プレゼントで、きりりは我が家にやってきました。

結婚してから、小鳥が飼いたい!とずっと言い続けていた私に
反対していた夫からの、突然の贈り物でした。

私は小さな頃から鳥や動物が大好き
実家でもいつも何かしらの生き物と暮らしていました。

周りも田んぼや空き地の多い環境だったので、ノラ猫も亀もカエルもかたつむりもツバメも、みんな友達でした。

一方、町暮らしで、ほとんど接触のなかった夫は
生き物が大の苦手。

鳥は足が恐竜みたいで怖い、それに最後まで面倒見る責任があるんだから
安易に飼っちゃだめと言い続けていました。

その夫が、誕生日に小鳥を買ってあげるよと急に言い出したのです。

やったー!私は天にも昇る気持ち。

でも今思うと、夫はどうしてそんな気持ちになったのかな。
聞いてみましたが、覚えていないそうです。

でも、その時は嬉しくて有頂天になり
そんなことも気にならず、いそいそと小鳥やさんに行きました。

家から歩いて10分ほど、坂道を下ったところにある
猫の額ほどの小さなペットショップに
たくさんのセキセイインコの雛がいました。

まだ羽の生えそろっていない
ホワホワとした産毛をまとった赤ちゃんチームのケージに
目が釘付けになりました。

空色で、顔が淡い黄色の子たちでした。

覗き込むと、5〜6羽ほどの兄弟たちがピュルピュルと鳴き出し
その中の一番小柄な一羽が私の方に近づいてきました。

お店に行く前から
最初に目が合った子を連れて帰ろうと決めていましたので、
「うち、くる?」と心の中でその子に話しかけました。

その瞬間、その子はひときわ大きな声でピュルル、ピュルルと鳴いて
「うん、うん!」と言っているような気がしました。


「この子にします」と店長さんに言うと、

「その子たちはまだ小さいからもうちょっと待ったほうがいいよ、ご飯もしょっちゅうあげないといけないし」という思いがけない返事。

でも子供の頃、家で孵ったインコの雛にスプーンでご飯をあげて
手乗りインコにしていたことがあったので、
そのかわいさ、楽しさを思うと
できるだけ小さなうちから、育てたくなりました。

なので、お店の人に

「大事にちゃんと育てますから」とお願いしました。

「死なせちゃっても知らないですよ、冬だし」と言われて、
ちょっとドキッとしたけれど
「大丈夫です!」と連れて帰ることにしました。

お店の店長さんは、動物の先生と呼ばれて
ラジオ番組で小鳥の飼い方の相談などをやっている人だそうで
どうしても赤ちゃんから育てたいという私にあまりいい顔をしませんでした。