小鳥のきりりA6       「ハガキ」☆

リシケシで宿泊していたのは、シバナンダアシュラムという流派のヨガのゲストハウスでした。

 洗面所のバケツと手おけを使って朝一番に洗濯をし、そのあと、歩いて5分ほどのカフェに朝ごはんを食べに行くというのが、遠出をしない日のおきまりのコースになっていました。

インドに着いて三日目の朝、不思議なことがありました。

いつものように洗面所でTシャツやブラウス、タオルなどを洗濯し、ビショビショになった洗面台の上を、持ってきた雑巾代わりのハンドタオルできれいに拭き取ってから、干しに行きました。

そしてバケツを片付けに洗面所に戻った時、何かが目に入り、ハッとしました。

さっきはなかったものが洗面台の上にあるのです。

それは2つに折りたたんだ、ハガキでした。

洗面ボールの右側の石でできたスペースの真ん中に、まるでメッセージカードのようにきちんと置かれています。

なんでこんなものが?

数分前まで、なかったのに?!

手に取ってみると、それは夫宛に送られたお酒屋さんからの案内のハガキでした。でもなぜ、そんなものがここに?

普通に考えたら、カバンの中に紛れ込んでいて、何かの拍子にそこに落ちたのでは?ということがあるかもしれません。

でも、荷物は最大限軽くするために、ガイドブックのいらないところは切り取ったり、これでもかというくらい、余分なものはメモ用紙一枚入れないようにしていたので、日本からそんなものを持ってきたはずがない。

それに、そのお酒屋さんはもう数年前にお店を辞めて今はないし、そんなハガキが家に保存してあったとも思えません。

洗面所入り口のすぐ横ですが、部屋には鍵をかけていて、誰も入ることはできません。

一体どういうこと??

小鳥のきりりA5      「広い世界・はじめて出会う私自身」


インドの旅は一ヶ月。

前半は、ヨガの聖地であるリシケシという町での滞在でした。

首都のデリーから車で9時間、ヨガとヒンズー教のお寺がたくさんあって、お坊さんがいっぱいいるベジタリアンのその町は、空気が透き通っているような感じで、汚いイメージしかなかったガンジス川も、ここでは青く澄んで見えました。

初めて一人で歩く外国の町。

言葉も通じない、文字も読めない、日本と全然違う文化に戸惑うことはたくさんありました。

だけど、来る前に感じていた不安は一切なく、ただただ、とほうもない開放感を味わいながら、毎朝、起きた時から、1日の始まりにワクワクし、気の向くまま小さな冒険をたくさんしました。

日本では感じたことのなかった私、それは、初めて出会う私でした。

これが私?

なんなの、こののびのびした、途方もなく自由な感じは?

原色の色鮮やかな衣装をまとってすれ違う目の大きな人たち。

ここでは誰一人、私のことを知らない。

私はただの私だ。

そんな感じが驚くほど新鮮で、果てしない気がしました。

出発前に、きりりがくれたメッセージ。

「広い世界に出て行きなさい」

その言葉がふと、よぎりました。

病気で何年も動けなくて、自分にはできることが何もない、自信もなく、いつの間にか見えない殻に閉じこめられて身動きが取れなくなっていた私が、今、日本から遠く離れた知らない場所にいて、イキイキと自分を生きている。

行きたいだけ広がる世界で、ただ生きていることを楽しんでいる。

とても不思議な感覚でした。